近年、「インバウンド」と呼ばれる訪日外国人旅行者数は、急速な拡大を遂げています。

昨年1年間の訪日外国人旅行者数は2,869万人に、訪日外国人の旅行消費額は4 兆4,162 億円まで拡大し、インバウンド観光は我が国の経済を支える一大産業へと成長しつつあります。

このように訪日外国人旅行者が増加している一方、旅行者の受け入れ環境の整備はまだ十分でないことがほとんどです。

例えば、訪日外国人旅行者のニーズが高い無料Wi-Fiの提供についても、大都市圏でこそ整備が進み、表1の「訪日外国人旅行者が旅行中に困ったこと」調査において、2014年度では1位だったところが直近の2017年度では3位にまで順位が下がっており、国の施策面のサポートもあり改善されていますが、地方ではまだまだ環境が整備されていないことが多く、スポットの整備も面ではなく点にとどまることから利便性が低く、「いつでもネットに繋がる」状態にはなっていないのが実情です。利用手続も難解で利用のハードルが高いものが多く見受けられます。長時間滞在が前提となる宿泊施設等はもちろん、訪日外国人旅行者が来訪する可能性のある店舗等では無料wi-fi導入はもはや必須のものと言えます。NTT BPが提供する「JCW(Japan Connected-free Wi-fi)」に対応したサービスであれば、提供店舗ごとの認証が不要となり、訪日外国人旅行者はもちろん、国内の利用者にとっても快適なネット環境を提供することができるでしょう。

最近では、これらの問題を解消する訪日外国人旅行者向けの新たなサービスとして、無料SIMを配布したり、プリペイドSIMの販売拠点を増やす取り組みも始まっています。こうした取り組みが進むことにより、訪日外国人旅行者がネットに常時アクセスできる環境が一層整備されることが期待できます。

 

同調査で訪日外国人旅行者が旅行中困ったこととしてもっとも割合が高かったのが「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」(26.1%)という問題です。これまで多く見られたツアー旅行の団体客だけでなく、今後は訪日外国人旅行者の個人旅行化が一層進むことを考慮すると、これまであまり訪日外国人旅行者が訪れることがなかった観光地へも来訪するケースが増加すると考えられますし、合わせてある程度複雑なコミュニケーションが必要となるような場面も増えることが想定されます。一方、多言語話者を雇用する、あるいは育成することは一朝一夕には実現できないことから、多言語コミュニケーションにおけるIT技術の活用が期待されます。

情報通信研究機構(NICT)が開発したVoiceTra技術を活用した多言語音声翻訳システムや、民間レベルでも瞬時に音声翻訳を可能とした小型の端末が比較的安価で販売が始まっているほか、スマートフォンアプリでも同様の機能を持つものが多くリリースされています。なかでも、検索エンジン大手のGoogleが提供する「Google翻訳」は、文章にカメラをかざすとリアルタイムに翻訳してくれる機能、音声入力する機能など豊富な機能を無料で利用することが可能です。これらのサービスを活用することで、円滑なコミュニケーションが実現し、訪日外国人旅行者の満足度向上にも繋がります。

表2 訪日外国人旅行者が利用した金融機関や決済方法(複数回答)

また、支払等の決済面での受入環境の整備も重要です。表2のとおり、現状では現金決済及びクレジットカードが大多数を占めていますが、今後は国内でも普及が進む電子決済サービスの対応を充実させ、自国で使っているサービスが日本国内でも同様に使えるようになれば、利便性の大幅な向上と、それに伴う消費の喚起が予想されます。たとえば、訪日外国人旅行者の中でもその数が多い中国人観光客に対しては、WeChat PayやAlipayといったスマホ決済への対応がそれにあたります。両サービスとも観光施設等での導入事例が増加しており、今後もこうした取り組みは一層増加していくものと考えられます。

これまで述べてきたような訪日外国人旅行者に対する環境面の整備は前述の「明日の日本を支える観光ビジョン」でも“ストレスフリーで快適な旅行環境の改善”として挙げられており、今後も予算面でのフォローなど国を挙げた取り組みが進められています。これらの整備を進めながら、観光客に対しての利便性の向上のみならず、提供する商品・サービスの総合的な満足度向上を図り、継続的な訪日外国人旅行者の来訪が自然と起こるような取り組みが必要です。

ITの分野は技術の進歩も早く、定期的な情報収集が欠かせませんが、積極的な利活用を行いながら自社・自店の発展に役立てていただければ幸いです。